フェデリコ・フェリーニ『81/2』とタロットの関係(7) 運命の輪と力

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フェリーニがサーカスをこよなく愛したのは周知の事実。今回の「運命の輪」と「力」はデザイン的に動物たちの曲芸や猛獣使いなどを連想させるという点においてとりわけサーカス風であり、いかにもフェリーニの想像力を刺激しそうな2枚である。特に後者は例のフェリーニが仕事机の近くに飾っていたライダー版3枚のうちのひとつでもある。

まずは「運命の輪」。踊り子ジャクリーヌと黒人ダンサーとフランス人女優、そしてハーレムの掟とそれに対する反乱。この場面、残されたシナリオによると原案の段階ではさらにサーカスらしさを前面に押し出した演出がなされる予定だったらしい(女性たちが虎に変身しグイドが猛獣使いよろしく輪くぐりをさせる、など)。

グイドの(幻想上の)ハーレムには彼の定めた掟がある。それは「一定の年齢を越えた女性はお役御免となり、『上の階』に収容される」というもの。ある日、この掟に女性たちが反抗して反乱が起きる。その反乱において三名の女性たちが主導的な役割を演じるのだが、下掲画像のようにその三人が「運命の輪」札に描かれた三匹の動物の様子とものの見事に一致しているのである。順に見て行こう。

ハーレムの女性たち
(クリックで拡大)

まず、タロット最上部(=「上の階」に通じる)にいる有翼のスフィンクス風動物はグイドの昔の恋人であった踊り子ジャクリーヌ・ボンボン。今回例の掟に従い「上の階」行きが決まったが、絶対に行かないと激しく抵抗し反乱の引鉄を引く。派手な衣装の装飾が件のスフィンクスを思わせる。

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タロット左側の猿らしき動物。ハーレムでは一番の新入りである黒人ダンサー。その容貌や敏捷な身のこなし、特に「暴君を倒せ!」と叫んで皆を煽動する際のターザンロープ的なアクションは、はっきりと猿の動きを連想させる。

黒人ダンサー

そしてタロット右側の犬のような動物。グイドがなかなか映画での役を割り振ってくれないことにずっと不満を抱えていたフランス人女優(モデルはルイーゼ・ライナーらしい)。これ幸いと反乱では真っ先にグイドに噛み付く。グイドが「カタツムリ」と揶揄する頭に刺した2本の髪飾りが、上掲の画像のようにタロット画のデザインとぴったり一致する。

フランス女優

恐らくは三者のタロット上での配置もここでは意味を持っている。今回「上の階」行きとなったのはジャクリーヌだが、すでに若くはないらしいフランス女優には遠い先のことではあるまい。一方で、まだ若く入ってきたばかりの黒人ダンサーには最も遠い先のこととなろう。

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では人が年齢を重ねる根本的な原因とは何か。「時の流れ」である。時間は「運命の輪」札のイマジェリーの大元をなす概念と言ってもよい。つまりは、『81/2』においてこの札がさらに持つ大きな意味が「時間」と解釈できる。「運命の輪」=時計とすれば、劇中大写しになるホテルの時計やグイドがパーチェに貰う腕時計が想起されよう。そもそも、この『81/2』も主人公グイドが作ろうとしている作品も「時間芸術」たる映画である。映写機の回るリールもまさしく「運命の輪」を彷彿。期限/締切り即ち時間に追い詰められるグイド。「残された時間はあまり無い、急げ」という「精霊たち」からの伝言…。

最終的には過去も現在も未来もない、超時間的なフィナーレを迎えることとなる。

時計
ホテルの時計
腕時計
プレゼントの腕時計

 

つづいて「力」札。これに関しては二つの見方がある。ひとつは描かれた女性と獣とを一体と見る場合で、即ちグイドの少年時代の記憶に鮮明に残る女性・サラギーナとなる。海辺に住んでいた蓬髪の怪しげな大女。グイドの学校の教師は彼女を「悪魔」と呼んでいた。

サラギーナ

下の動画はまさしく砂漠の巣穴から徐に姿を表すライオンの如きサラギーナの初登場シーン。グイドを含む少年たちに請われて小銭と引き換えにワイルドで扇情的なルンバを踊る。グイドの性への目覚め。この作品中、最も強烈な印象を残すシーンのひとつである。

サラギーナには実在のモデルがいる。フェリーニの少年時代、地元の浜辺の小屋にまさに「サラギーナ」と呼ばれる娼婦が住んでいた(呼び名の由来は売り物にならない鰯〈サラギーネ〉を料金代わりとして漁師相手に商売をしていたこと)。小銭をやるとスカートをたくし上げ、太い腿と豊かな陰毛を見せてくれたという。

さらに興味深いエピソードをフェリーニは語っている。件のサラギーナの「ご開帳」を初拝観したあと、家に戻ると伯父がオカルト関係の本を数冊お土産に置いて行ってくれていた。その内の1冊の余白にサラギーナとしか思えない落書きがあった。「からだは豹で尻が地球ほども大きい。冠には宝石が人間の目の形に並んできらめいていた。」

ここでマルセイユ版「力」に目を向けると、描かれている(豹ではないものの)ライオンらしき獣の開いた口と長いたてがみは女陰と豊かな陰毛を連想させる。さらに、頭には冠らしきものを戴いていることにも注目。

野性的で大いなる力を備えた畏敬の対象としての女性像。「グレートマザー」的な存在と見るべきだろう。フェリーニが生涯この種の「大女」のイメージに取り憑かれ、繰り返し夢にも見また自分の映画にも登場させたのはよく知られた事実である。

「力」札のライオンの鋭い歯には、心理学でいう「ヴァギナ・デンタータ(歯の生えた膣)」を連想した可能性もあろう。

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さてもうひとつは、獣と女性を切り離して考える場合。前者がライオンのたてがみのような蓬髪でこの上なく野性的なサラギーナであるのは自明として、女性の方はハーレム幻想にも姿を見せる「見知らぬ謎の美女」を措いて他にあるまい。初登場のシーンでは鍔広の帽子を被った姿とホテルの階段下にあるライオンの彫像が重なってまさに「力」札の構図そのものを示している。

見知らぬ謎の美女

見知らぬ謎の美女1

この映画の中でとりわけ優美さを強調されているキャラクターであり、何者かを相手に電話で決して気品を失わず「怒ってはいない」「私は全てを許している」と告げる様子に垣間見える「自制心」も、穏やかに猛獣を制する「猛獣使い」に相応しい。

見知らぬ謎の美女2

最後に見落としてはならないのは、フィナーレにおいて数多くの登場人物たちが皆サーカスリングの周縁台の上で手を繋ぐ際「見知らぬ美女」とサラギーナがしっかり隣り合って手をつないでいること。この演出、果たしてフェリーニに特別な意図はなかったと見るべきだろうか?(了)

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