・『西洋運命書』(河合乙彦著)- 昭和5年

 私が開設当初に定めた当ブログのコンセプトの一つに「タロットに関してまだあまり一般に知られていないトピックを紹介していく」というのがある。その一環として「日本におけるタロット受容の歴史」を扱っていこうと考えている。今回はその第一回目として、我が国へタロットを本格的に紹介した最初の書と思われる[☆脚註1]河合乙彦著『西洋運命書』(春陽堂)を取り上げてみよう。

 奥付によると初版発行は昭和5年(1930)12月。次回扱う予定の酒井潔著『降霊魔術』よりわずかに早い。函と本体の表紙にウェイト版の「剣の2」、同じく背表紙に「ペンタクルのエース」をあしらった、なかなか洒落たデザインの本である(トップ画像参照)。内容は占星術や手相・水晶占い・トランプ占い・土占術(ジェオマンシー)など西洋のいろいろな占いの方法を概説したものとなっているが、前書きによると著者は専門の占い師だったわけではないらしい。

 この書については辛島宜夫氏がかの大ロングセラー『タロット占いの秘密』(二見書房) 中で言及しており、それによると「この本は数年ののち、当時の内務省の検閲によって、発禁になったとのこと」。何とも時代を感じさせるエピソードである。

 では本題のタロットの話に移ることにしよう。同書のタロットに関する記述はそれぞれ短い2つの章に分けられている。古い本なのでここで全文を紹介することにするが、雰囲気を味わって頂くため敢えて原文の旧字旧仮名遣いのままとした。(残念ながらフォントの都合上完全な再現ではないことをお断りしておく。また明らかな誤記や誤植なども訂正せずそのままにしておいた。)

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タロツトカードの運命判斷

 タロツトは古代埃及人から伝はつた現在最も古いカードの一つで、今日ではジプシーなどが唯一の娯樂品でもあり、經典でもあり、彼等に取つて無二の書籍として、携帶して居るのである。
 タロツトと云ふのは人生の王道とでも云ふやうな意味で、七十八枚のカードから成り立ち、カツプス(ハートに對するもの)スヲード(スペード)ダニーヤス(クラブス)ウワンド又はセプタース(ダイヤモンド)の四種類に分れて居る。そしてヘブリユーのアルフワベツト文字に對應した二十二枚の手引札があつて、判斷に役立つて居る。(元來フブリユー文字には文字本來の數値が定まつて居る)即ち
 第一、ベートリユール又はジヤツグラー、勝つことを顯はす。
 第二、高僧、科學、智識等を顯はす。
 第三、皇后、行爲、發案を顯はす。
 第四、皇帝、實現、發展を顯はす。
 第五、ヒーロフワント又は法王、惠みとか恩惠とかの意。
 第六、戀人、聰明な傾向。
 第七、昔の戰車、勝利、邪魔物を取り除くことを顯はす。
 第八、シーミス、正義を顯はす。
 第九、隱者、注意を顯はす。
 第十、幸運の車、幸運、善惡を顯はす。
 第十一、不屈の精神、勢力を顯はす。
 第十二、縊れた人、忠誠、自己犠牲を顯はす。
 第十三、死、移り變ることを顯はす。
 第十四、自制、團結聯合を顯はす。
 第十五、惡魔、運命を顯はす。
 第十六、雷火にうたれた塔、零落、分裂等を顯はす。
 第十七、星、希望を顯はす。
 第十八、月、薄明、詐欺、誤り等を顯はす。
 第十九、太陽、地上の幸福を顯はす。
 第二十、最後の審判、更新、事物の決定。
 第二十一、宇宙、完成と報酬を顯はす。
 第零、馬鹿な男、罪を償ふ又は漂浪を顯はす。
 普通慰みのカードと同く、タロツト、カードにも四つのヱースがある。王樣。女王、シユヴアリール(異性の若い人物を表はす)ネーヴ等もある。又カードは買ふときに注意して、上にも下にも兩方に頭のあるのを買つてはいけない。上下の区別がつきにくいから、孰れかに印をつけて上下を分けなくてはならない。それでないと上下の間違ひから、札の表はす意味が違ふからです。タロツトによる運命判斷は正確に占ふとすれば、札を三組持たなくては駄目である。一つはお前だけの吉凶を表はし、他の一つはお前の子供の運命を表はし、残る一つは死後のお前の運命を表はすのである。そして第一は一つのキーもつけない。第二は完全で、第三はキーカードだけで、平生絹のきれで包んで、杉の箱に收めて置くのである。それで占ふときには嚴重な儀式を經て、愼重に行ふのである。
 此の占法にも色々あるが、まあ簡單なのが一番よからう、札の表はす意味は前記のものと同一である。
 フロンス、マリヤツト女史[※Florence Marryat(イギリスの作家)か]は『カードの運命判斷は詰り占ふ人の天分によつて、巧拙の差が出來るので、幾等練習しても、或程度以上に逹することは出來ぬ』と云つて居る。
 占つて貰ふ人はカードをよく交ぜ合はせて、左の手で三度札を切る。それからカードを占ふ人は、中央のカードを取つて、解釋するのであるが、他の方法は占つて貰ふ人として、王様か女王を撰びとり、それから前の如く札を交ぜ合せて、切るのである。
 そして意味の明に知れた札は、テーブルの上に置き且つ繪や數の書いてある方に向けて並べて置くのである。又その左側に撰ばれたカードを順序よく並べて置くのだから、充分空間をあけて置かねばならない。そして前にも話した通り、七枚目のカードを拔き取り、拔き取りして二十一枚出來るまで之を継續し、さて此の二十一枚を三列に揃へて、一列七枚づゝ配列し、それで右から左の方に判斷して行き、一と二十一と、二と二十一[※原文ママ]と、三と十九と順次同様に聯絡して判断して行き、占つて貰ふ人の希望ならば、金銭問題とか、戀愛關係とか、生死の判斷とか、其他百般の人事を占ふのである。
 それでキーの書いてある札を引いて、殘りを交ぜ合せ、それから占つて貰ふ人に、勝手に四枚の札を拔かせて、テーブルの上に眞四角に並べさせ、又別に三枚の札を拔かせて、四角の中に三角形に並べさせて、適宜の事柄を判斷するのである。これは普通カードでやつても宜いが臨機にタロツト、カードを造つて、試みた方が興味がある。

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古代ケルテイツク人のタロツト占法

 タロツト、カードの占ひ方として、古代ケルテイツク人の使用した方法を説明しやう。占ふ人が先づ一枚のカードを撰み取つて、占ひを求める人物を代表させる。此の札を『意味を表す札と云ふのである。この札を撰ぶには其の占を求める人の人柄身分などを考へて、札と實地と成る可く似通つたのが宜いのである。今意味を表はす札として武士が撰ばれたとすると、占ひを求める人は年配も四十以上で、社會的の地位も先相應の人でなくてはならない。そして王樣はそれよりも幾等か年の若い人を代表す可く、女王は年齡四十内外の女を代表し、それよりも年の若い人を代表するならば小姓であらう。又棒の四の宮廷札は容貌秀麗な人々を表はし、酒杯の宮廷札は容貌では第二流の人々を、劍の宮廷札は今少し欝陶しい人々を、魔術環の宮廷札は最も陰氣な地味な人物を表すのである。併し其の人々の心理状態が能く知られて居る時には、唯外形だけに拘泥しないで札の配當を違へても宜いのである。
 又意味を表はす札を撰定するのに、占を要求する人でなく、其の事件で札をきめても宜しい。例へば私は訟訴事件に勝ちませうかと云ふ問ひを占ふ意味札として、トランプ第十一即ち正義の札を撰んでもいゝ。
 かくて兎も角意味を表はす札を撰定したなら、テーブルの上に繪の方を上向きにして置き、殘餘の札を三囘混ぜ合せて切り、繪の方を下に向けて置き、扨て澤山ある札の最初の一枚を取つて、意味を表はす札の上に横さまに丁度十字型になるやうに置き、『これが彼を守る』と叫び、この札で大體の見當はつくのである。又殘餘の札の先登の一枚をめくり、そして第一にめくつた札に對して、横さまに十字型に置て『これが彼を妨げる』と云ふのである。
 事實此の札は意味を表はす札を妨げるものであるが、其の札が宜い札であれば却て元の札が惡いと判斷せねばならぬ。
 次に又三枚目の札をめくつて、意味を表はす札の上に置き、『此が彼に褒美をやる』と云ふのである。即ち其の譯は訊問者の手助けとなること或はその條件の下では最もいゝこと、併し實際には未だ遣らなかつた事を表はして居る。それから第四番目をめくる、そして其れを意味札の下に置て、『これは彼の下です』と云ふのである。それは此の事件の基礎的性質のもので占ひを要求したことも自ら既に之を實行したことです。第五番目の札をめくるのです。それで『これが彼の後に居るのです』と云つて、意味を表はす札の積み重ねてある右側に置くのです。これは事件の推移を知るに必要なことなのです。次に第六番目の札をめくつて『これが彼の前です』と云つて、意味を表はす札の左側に置くのです。之は左方要求者の近將來の状況を知る札です。扨て之で意味札は四方圍はれたが其の次に第七、第八、第九、第十とめくつて、意味を表はす札の右側に四枚縱に並べて置くのだが、第七番目が最下で第十番が最上になるやうに置くのです。此の四枚の札の中の第七番目は占を求める人即意味を求める札と同格で、その占はんとする人や事物の位置及び態度を明示するものである。第八番目は彼の家を表はし、其の環境等を代辯するものである。第九番目は其の事件に依る彼の希望や恐怖を示すのである。第十番目は最後の結果を即ち他の札の色々現はした事象の結末を綜合したものである。然し萬一其の十番目の札でも、意味が充分取れない即ち結末札でない場合には、その札を、意味を表はす札として、最初置いた位置から置き變へ、殘りの札を混同し三囘切り改めてから、又再十枚の札をめくつて其の占を完成するのである。それでも結末の意味が不充分ならば幾囘でも改めてめくり直すのである。札の價値等前章を參考せられよ。

       

右[※上の画像のこと]は罫線でタロツトカードの占ひ方を結論的に圖解したのである。タロツトの占ひ方は前記の外色々あるのだが、この小冊子に尽すことは出來ぬから、此の一例を引て置く。
 又タロツト・カードの標本を左にしめして置く。 

   

[※以下ウェイト版全78枚の図版。「馬鹿」(=愚者)は20番と21番の間]

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 さて上記二章の出典については明記されていないのだが、内容からして前者はMcGregor Mathersによる『タロット』と題された小冊子(1888)、後者はWaiteの『タロット図解』(1911)と思われる。後者についてはほぼ疑問の余地はないと思われるが(図版もWaite本からの引き写しであろう)、前者については少し詳しく考察してみよう。

 各カードのタイトルとキーワードを見てみると、ほぼ完全にMathersのものと一致していることがわかる(最もわかりやすい例が “5. The Hierophant, or Pope” と “8. Themes, or Justice” )。第1アルカナの「勝つこと」というキーワードが気になるところだが、これはMathersが挙げている”will”を”win”と読み間違えたものであろう。「愚者」が最後に置かれているのも恐らくゼロのついたカードを22番目の札としているMathers本冒頭の記述を基にしているものと思われる。最初に紹介されている展開法もMathers本中の第2メソッドと同一のものである。タロットとトランプのスーツの対応(コイン=クラブ、棒=ダイヤモンド)も同様であり、とにかく内容的に見て大部分がMathers本の中に見出されるのである。

 ただし、明らかにMathers以外の典拠に由来している部分もいくらかある。例えば最後の部分で簡単に触れられている展開法はMathers本には無いが、Papusの 『漂泊民のタロット』ではほぼ同一のものが紹介されている。「札は三組持たなくてはならない」という部分や「絹に包んで杉の箱に保管せよ」という部分については、はっきりとした出典は不明である。例えばE. Levi著/Westcott編の『神聖王国の魔術儀式』(”The Magical Ritual of the Sanctum Regnum”, 1896)中に「魔術道具やタリスマンは絹に包んでヒマラヤ杉の箱に納めよ」という記述がある。これは直接の出典ではあるまいが、その影響を受けたものと思しきタロット関連の文章が19世紀末の神智学系雑誌等に見られる。はっきりとしたことが分かり次第報告させて頂こう。

 最後に。河合がMathersやWaiteの著書から直に引用したものかどうか、今となっては検証の仕様もないが(他者による引用や海賊版を通してであった可能性も十分にある)、いずれにせよこの書はタロットだけでなく「黄金の夜明け団」系文書を紹介したものとしても本邦最初期の例であると言ってよかろう。

☆脚註1
その存在に言及した書物はそれ以前にもあったようだ。尾佐竹猛『賭博と掏摸の研究』(大正14年)等。

    
      『賭博と掏摸の研究』(初版本) 函と本体。   

※トップの画像
『西洋運命書』(初版本) 函と本体。