フェデリコ・フェリーニ『81/2』とタロットの関係(10) 神の家と星

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「神の家」=グイドの次回作のために建設中のロケット発射台のセット。最上部にたなびく吹き流しはマルセイユ版右上の炎状のデザインを彷彿させる。グイド自身はこのセットを”torre”と呼んでいるがこれはイタリア語でまさに「塔」の意であり、イタリア語圏におけるこの札の一般的な名称である。例のモディアーノ版においても然り。

xvi-塔

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実際、このロケット発射台のデザインにあたって美術監督ピエロ・ゲラルディは画家ブリューゲルの代表作のひとつ『バベルの塔』を参考にしたという。

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この「塔」の下での製作発表会見でいよいよ進退窮まったグイドは、この札に描かれる人物さながらに這々の体で逃亡を試みる。(この札の人物の姿を「脱出」と取るのは「皇帝」札の勲章と同様18世紀のクール=ド=ジェブランにまで溯る伝統的な解釈でもある)。

塔

さらには空想の上でだが、自分の頭にピストルを当て発射する。これもこの札右上に描かれる炎を容易に連想させる。そもそもこのロケット台が「核戦争で荒廃した地球から脱出するためのもの」というから、イメージ的には多重に照応しているといえる。

塔

結局製作中止が決定し、ロケット台の取り壊しが始まる。崩壊する「塔」。

塔

そして祝祭的フィナーレにおいては、この「塔」からグイドの人生を彩った人々が賑やかに降りてくる。これもまたマルセイユ版のこの札のデザインと見事につながっている。

塔

ついでにもうひとつだけこの札のデザインの影がちらつく部分を指摘するならば、「恋人」や「吊るされた男」の項で取り上げた冒頭悪夢の飛翔と墜落のシーン。ただここはもしかすると、ピカソ(フェリーニは彼のファンだった)による1958年完成のイカロス墜落図に影響を受けたのかもしれない。

飛翔

吊るし人グイド

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ピカソが描いたイカロスの墜落(在パリのユネスコ本部)

 

つづいて『星』。まず直接的には少年時代、サラギーナの件でグイドが贖罪の祈りを捧げる聖母マリア像。この聖母像の頭の周りに星が取り巻いている。周囲のロウソクはタロットに描かれた樹木とも重なる。

さらに注目すべきは、この構図がフィナーレの「塔」の下で妻ルイーザがグイドに赦しを与え和解する場面ともオーバーラップすること。「星/ロウソクの灯=撮影ライト」。

xvii-星のマリア像

xvii-ルイーザ

ここで指摘しておきたいのは、ルイーザと女優クラウディアの初登場場面には同じBGM(『アラビアの酋長』もしくは『ブルー・ムーン』)が使われているということである。共に同じような燭台を手にしている非常に似た場面もある。さらにはルイーザとの和解後、クラウディアは大団円の円舞に姿を見せていない。これはつまり、最後にはグイドの内面における理想の女性像であったクラウディアが現実の自分の伴侶ルイーザと融合した、ということではなかろうか。グイドの中で分裂していた女性像(=アニマ)が妻ルイーザを代表として統合された、とも言えそうである。

ルイーザとクラウディア

ハーレム幻想シーンでさらにタロット「星」札とのデザイン的関連が見られる。跪いてバケツから水をまきながら床掃除をするルイーザの姿。この場面での彼女は献身的で夫の言動を全肯定する存在となっている。

xvii-献身的ルイーザ

さらに、グイドが入る風呂に湯を注ぐ彼の子供時代の愛情深い子守役たち。二つの手桶から流れる水はタロットそのまま。

xvii-二人の子守り役

このハーレムには例の、気品と慈愛に満ちた「見知らぬ美女」も姿を見せる(よく見ると上記のマリア像に顔がとても似ている)。グイドにとって、女性たちが無償の愛を与えてくれるまさに理想の楽園なのであろう。(了)

 

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